レグナスに生きる

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Skyf Lute

フェステ

BLUE PROTOCOLサービス開始1000日記念

 交易都市アステルリーズ。マグナ大陸南端の交易都市であり、私たちの活動拠点。  街の中心地である開拓局に程近いエリア、双面コイン亭の二階にあるいつもの部屋で目覚めた私は、すっかり馴染んだ階下の喧騒に耳を傾けながら体を起こす。ぼやけた視界の中、手探りで枕元の眼鏡を掴み、装着。この動作も、完全に慣れたものである。  隣を見れば、主人であるフェステは未だ夢の中で。普段見せる尊大な表情とは打って変わって、外見相応の幼気な寝顔が微笑ましく、頬がゆるむのが自分でも分かる。   今日は予定も無いし、もう少し寝かせておいてあげよう。  寝癖の付いた主人の頭を柔らかに撫でてからベッドから起き上がって、部屋の隅に置かれた鏡台の前で身だしなみを整えていく。さて、今日の服は何にしよう。衣装棚に収められた多くのお気に入りの服を見比べる。  活動的でありながらも、都会的で洗練された雰囲気を持つアーバンか。はたまた、非常に機能的でありながらファッション性も兼ね備えたアーキテクトか。あるいは……。  ひとしきり悩み、手にしたのは『リップルトップFバッハ』。随所にあしらわれた錨のモチーフが可愛らしい一着で、春の訪れですっかり暖かくなったアステルリーズに丁度いい。揃いの手袋を嵌めて、靴は……『ドレッシーシューズFサファイア』にしよう。薄紫の紐がお気に入りで、カラリーングショップで染めたリップルとは色合いの相性も抜群。髪には『エブリデイコサージュF燦々』を着けて、うん。 しかし、この衣装だといつもの黒縁眼鏡が少し気になってしまう。鏡台の引き出しを開ければ、そこに並ぶ様々なデザインの眼鏡たち。その中から手に取ったのは『花紋眼鏡F白』。  鏡台の隣にある大きな姿見の前で、私が今日もバッチリ決まったコーディネートに満足していると、ベッドの方からもぞもぞとした物音が聞こえてくる。 「フェステおはよう」 「……おはようなのじゃ」  ふぁ~と欠伸をしてから立ち上がったフェステは、特に何も言わず鏡台の前の椅子に座る。主人の身だしなみを整えるのもまた、下僕の務めだ。 フェステの後ろに立って、少し寝癖の付いた赤紫の髪に櫛を通していく。跳ねた毛先を整えたら、後頭部のツノにリボンを結ぶ。 「はい、完成」 「うむ」  満足そうに頷いて、フェステは衣装棚からいつものコートを取り出し、袖を通す。私もフェステも身支度は完璧。となればさあ、朝食の時間だ。 双面コイン亭は朝から順調な客入り。部屋のドアを開ければ、階下の喧騒がはっきりと聞こえてくる。依頼への出発前に話し合いをする冒険者達であったり、噂話に興じる近所のご婦人方であったりの声と、食事の音。 階段を降りれば、亭主代理(であると頑なに譲らない)がすっかり板についたジェイクがカウンターに立っている。 「ジェイクおはよう」「おはようなのじゃ」 「おう、おはようお二人さん。いつものでいいか?」  カウンター席に腰を下ろしてから頷く。フェステも頷く。 「OK、了解した」  水を入れたグラスを二杯置いてから、ジェイクはバックヤードのキッチンへ。 「のう下僕よ、今日は何か予定はあるか?」 「? 特に無いけど……」  最近は冒険者の仕事やアバリティアの解放、他にも色々で忙しくしていたが、今日が久々の完全オフなのはフェステも把握しているはず……それとも何か、私が忘れていることでもあっただろうか。 「あ~、それなら……ちょっと、付き合ってほしいところがあるんじゃが」 「戦闘とか、そういうのじゃないんだよね?」 「勿論じゃ、それにそう時間は取らせん」  主人なのだから、気にせず「下僕よ、ワシに付き合うのじゃ!」とか言えばいいのに、相変わらず変な所で律儀というか何と言うか。 「全然いいよ、それぐらい」 「おお、そうか。ならば良かった」  話に一区切り付いて丁度、ジェイクが料理を持って戻ってきた。 「はいよ、おまちどうさん」 そう言ってジェイクが並べるのは、コイン亭特製の具沢山クリームスープと、ミンスターホルン産小麦の焼き立てパンという朝食セット。私のお気に入りでもあると同時に、コイン亭朝食メニューの一番人気。 「「いただきます」」 クリームスープを口に含めば、ミルクの優しい味わいが広がり、ゴロッとした野菜たちは柔らかく、噛めば一気に旨味が弾ける。豊かな小麦の風味を感じるパンは少し硬めだが、これがクリームスープと合わせると丁度いいのだ。  程々にボリュームのあったセットだが、気付けば完食である。すぐにフェステも完食したので一緒に席を立つ。 「ご馳走様でした」「ご馳走様なのじゃ」 「おう」  カラン、とドアを開けてコイン亭を出る。 「それでフェステ、行きたいところって?」 「アステリア平原の方なのじゃが……うむ、とりあえずワシについて来てくれ」  そう言って歩き出したフェステの後に私も続いた。開拓局前に出てから、メインストリートを街門広場の方へと進んでいく。すれ違う人々と挨拶を交わしながら、ふと思う。 ――そういえば、この街に来てから結構経ったな。  活気あるこの街の人混み。初めて訪れた時は人の多さに圧倒されるばかりで、知っている人なんてそれこそ一人も居なかった。それが今は、すれ違う人々の中には見知った人々の顔がたくさんある。   私もこの街の一員なんだ。  活気に溢れ、それでいて他人の様に感じられたこの街は、いつの間にか私の「故郷」になっていたようだった。  門番に挨拶して、アステリア平原に続く大橋を渡る。  心地の良い潮風が頬を撫で、海鳥の鳴き声が聞こえてくる。 「そういえば、エーリンゼ達は連れてこなくて良かったの?」  その問いかけに、フェステはふと足を止めた。  最近は彼女たちと共にマグナ大陸各地のアバリティア解放を進めていることもあって、ほとんどずっと一緒に行動していた。それは例えば何処かに遊びに行くときも同じで、それ故に出た何気ない問いだったのだが……。 「……今日は、お主と二人で行きたいのじゃ」  少し恥ずかしそうに告げて、フェステは再び歩き出す。  平原に着いて、海鳴りの草原を進んでいく。  特に会話はなかったが、むしろそれが心地良い。そう思った。  石畳の道を外れ森の中を歩く。なんとなく、フェステの目的地が分かった。 「ここじゃ」  そう言って彼女が立ち止まったのは、『崖の遺跡』の前。 「お主と初めて会ったのはここじゃったな」 「そうだね」  話しながら、遺跡の中へと進んでいく。 「懐かしいのう。ゴブリンに見つかって、逃げた先にお主が居た時は本当に焦ったのじゃぞ?」 「……それはごめん?」  疑問形になってしまうのも仕方がないだろう。なんせ何故ここに居たのか、私にも未だ分からないのだから。 「気にせんで良いぞ、なんせお主はワシの最高の下僕じゃからな」  ホッホッホ、と笑うフェステ。 「だからまあ、なんじゃ」  すぅ、と彼女は息を吸い込んだ。 「これからも、よろしく頼むぞ下僕」 「もちろん」  アステルリーズへの帰路。 「ところで、なんでいきなり『崖の遺跡』に?」 「それはあれじゃ、今日は記念日じゃからな」 「……そうなの?」 「む、さてはお主、分かっておらんな」  うん、と頷く。 「まったく、仕方ない下僕じゃのぅ」  私の前に躍り出て、振り返ってフェステは笑う。 「今日はな、ワシとお主があそこで出会って、一〇〇〇日目の記念日なのじゃ!」 ――これからも私は、この愛すべき主人と、仲間たちと、レグナスに生きる。

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