The Ending

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じじょう

※注意!ゲーム内のメインキャラが死にます、それでも大丈夫な方のみこの先へお進みください 私の自キャラであるメルト・ジュースがアステルリーズをぶっ壊し、ついでに惑星レグナスを滅亡させるお話です 過去作を読んでからだとなぜそんなことをするのか、なぜそれほどの力を持っているのかも理解できて楽しめると思います ↓過去作たち↓ The 1st Turning Point:https://x.com/jijoBP/status/1741878172130607107 The 2nd Turning Point(Part.1):https://x.com/jijoBP/status/1744697716268236956 The 2nd Turning Point(Part.2):https://x.com/jijoBP/status/1746541975934001510 The 3rd Turning Point:https://x.com/jijoBP/status/1748001964309512233 Demon's Birth:https://x.com/jijoBP/status/1754855763431104803 Tyrants Record(Part.1):https://x.com/jijoBP/status/1759590109262086152 Tyrants Record(Part.2):https://x.com/jijoBP/status/1760234825171239363 Sacrifice『E』:https://x.com/jijoBP/status/1779434758134698312 EX・Demon's Wrath:https://x.com/jijoBP/status/1786420684262125858 メルト編最終章第一話:https://x.com/jijoBP/status/1796564547047924215 メルト編最終章第二話:https://x.com/jijoBP/status/1797286436183703698 メルト編最終章第三話:https://x.com/jijoBP/status/1798008763577926060 メルト編最終章第四話:https://x.com/jijoBP/status/1798731813134971253 メルト編最終章第五話:https://x.com/jijoBP/status/1799457654974406709 メルト編最終章第六話:https://x.com/jijoBP/status/1800182874752291106 メルト編最終章第七話:https://x.com/jijoBP/status/1800910523049152786 メルト編最終章第八話:https://x.com/jijoBP/status/1801268304226742416 ↓今回の話の前日譚↓ EX・Ending is Beginning:https://x.com/jijoBP/status/1853735298674364524

「懐かしいなァ、この感じ」    アステルリーズ神殿。  冬の冷たい風の吹く街を見下ろすように、神殿の最上部で白い髪が揺れる。  彼の名は禍言。  かつて、レグナスではない別の世界にて”人類最大の敵”と称され、二人の共犯者と共に世界を壊すために戦っていた男だ。  メルトによってレグナスに呼び寄せられた今は、そのメルトの作った組織、潜星機構に所属している。    潜星機構は形だけの組織だった。  『世界中の武術を効率よく蒐集する』という目的で設立されたものの、実際に活動があったことはなく、創設者であるメルト自身その存在を忘れていた。  しかし、それは過去形なのだ。  形だけの組織だったのだ。  今はある目的のため、たった二人の潜星機構は行動を起こしていた。   「実際見下ろしてんだぜ——っと、そろそろ時間か」    空を仰ぎ禍言は月の位置を確かめる。  が月の高さから時間を割り出すなんて芸当などできるはずもなく、すぐに諦め懐から取り出した懐中時計で現在時刻を確認した。  一月十八日、二十一時。  世界の終わる、一時間前。  世界を終わらせる、一時間前。   「聞くところによると、どうやら千年後には滅びの未来が待ってるらしいが……そんな未来まで待つこたァねェ。この世界はメルト、お前が終わらせるんだ」    懐中時計を仕舞うことなくぽいっと投げ捨てると、禍言は足を外し、飛び降りた。  地面まで数十メートルはあるであろうその高所から、猫のように足音すら立てることなく着地する。  潜星機構の現在の目的。  それ即ち、人類の滅亡だ。  世界の終焉だ。   「他所モンのオレじゃあねェ。この世界で生まれ、人から呪われたお前が、人類を、世界を滅ぼすんだ。因果応報ってやつだな」    ゆったりとした足取りで、硬い靴裏で音を鳴らすように歩く。   「ま、そういうことでオレはあいつの出番が終わるまでまで出しゃばれねェンだ。せいぜい、オレの出番が来るよう足掻いてくれや」    くはは、とシニカルに笑った。      時を同じくして、街門広場。  パラソル下の椅子に座る二人組がいた。   「なぁ下僕」 「なにフェステ?」 「本当にワシらここにいていいのか?」 「いいのかも何も、そういう作戦でしょ?」 「そりゃあそうじゃが……」    その二人組とは、亜人の少女フェステと、数々の事件を解決し、竜族の王すらも打ち破った冒険者だ。   「今日アステルリーズに攻めてくる”怒りの魔人”メルト・ジュースを海底に設置した転送ポータルに送り、自然の力で倒す作戦……そのためにポータルに誘導しなければならないのは分かってるんじゃが、お主が出れば魔人程度倒せるじゃろ!という話じゃ」 「フェステは私の力を買い被りすぎだよ」    街ではメルトと冒険者の大規模な戦闘が予想されるため、住民は全員神殿地下の歌劇場に避難していた。  そのため、現在この街は人の営みの見せる明かりはほとんど灯っておらず、月明かりだけが冒険者たちを照らしている。   「でもその魔人、なかなか来ないね」 「そうじゃな〜……実はビビって逃げたのかもしれんな!」    フェステは椅子から立ち、冒険者の目の前でそう軽口を叩く。  しかし、フェステのその希望的観測は、文字通り希望で終わった。  二人を轟音と衝撃が襲い、音のした方角に目を向けると正面の家屋が大破していたのだ。   「いって……」 「ま、さか……」    ガラガラと崩れる瓦礫の中から、家屋を破壊した張本人が現れる。  白紫の髪に紫の瞳。長い前髪の下には二本の傷のある左目。  間違いない。   「出おったな——」 「——あなたが魔人、メルトか」    ”怒りの魔人”メルト・ジュースが二人の元に襲来した。   「さて」    メルトは紫の瞳を目の前の二人に向ける。  視線を向けられた。  たったそれだけながら肌を焼くような威圧感に圧倒され、フェステは蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまう。     「フェステ下がって!」    だが、冒険者のその声によってその硬直は解かれ、すぐさま冒険者の後ろに下がった。  メルトはそんなフェステのことなど気にも止めず、二人から視線を外し服についたホコリをはたき落とす。  油断しきった態度のメルトに、冒険者は剣を抜き攻撃をしかけた。   「その顔……そうか、お前が竜王を殺したとかいう名も無き冒険者《ネームレス》か。とりあえずお前が邪魔だな」    メルトは振り下ろされた剣を側面から左腕で弾き、冒険者の顔を見る。  英雄と噂される冒険者であると確認すると、空いた右腕で冒険者を掌底で吹き飛ばし正面のモニターに叩きつけた。   「下僕!大丈夫か!」 「う、うん、ちょっと飛ばされただけだから」    冒険者は割れたガラスで全身を切ったものの、これくらいならばエングラムによる治療ですぐに治せる。傷を再生させながら立ち上がった。  普通に剣を振っては弾かれると学んだ冒険者は構えを変え、刺突剣の構えで挑む。  対するメルトは、細かく動きながら繰り出される剣撃を最小の動きで回避し続ける。  冒険者の動きに何らかの意図を感じ、その意図を探るためだ。   「なるほどね、ポータルを踏ませたいのか」 「——ッ!」 「図星か」    冒険者の反応から、自身の建てた予測が確信に変わる。  ポータルを踏んだあどこに飛ばされるのかまではメルトには分からないが、少なくとも安全な場所ではないだろう。  であればメルトに踏む義理はない。   「つまりお前らはポータルを踏ませてどこかに飛ばす以外に私を殺す手段を持たない訳だ。じゃあもういいか」    相手の手の内を見透かしたメルトは回避を止め、自身のこめかみに迫る剣先を人差し指と中指で受け止める。  そして万力のような力で剣を挟み込むと剣を挟んだ手を後方に引き、前に出てきた剣の柄を持つ冒険者の手に蹴りを叩き込んだ。  蹴られた冒険者は反射的に剣から手を離してしまい、メルトはすかさず剣を後方に投げ捨てる。  剣は家屋の瓦礫の中に入っていき、取り出すことは困難となった。   「もういっちょ」    メルトは剣を失った冒険者の顔面に手を伸ばす。  伸ばしたその手は——その指は、冒険者の両目を捉えた。  なんの躊躇いもなくメルトは冒険者の両目に指を突き立て、もとい突き刺した。  さらに、空いた親指を鼻に引っ掛け、冒険者の顔面をさながらボウリングの玉のように掴んだ。  ガッチリと掴んだ冒険者の頭に膝を差し出し冒険者の歯を叩き折ると、頭から手を離し冒険者を開放した。  両目を潰され、前歯も軒並み折られた冒険者はその場に倒れ悶絶する。   「ぐ、ぅうっ……」 「……へぇ、すごいね。それも治せちゃうんだ」    だが冒険者は潰された眼球と歯をまたもやエングラムの治療で再生させ立ち上がる。  これこそが、この冒険者の強みだ。  人よりも多い生体エングラムに、それによる肉体の再生と、何度でも立ち上がる精神の強靭さ。  これが竜王に勝った最大の要因と言えよう。  さらに、眼球や内臓といった重要器官の再生は困難を極める。  メルトでさえ失った眼球を再生させることは叶わず、自身の肉体に同居する悪魔から片手を借り受けているのだ。  それを易々と行ってのけるこの冒険者は、再生能力だけで見れば人類トップクラスと言えよう。  メルトは素直に感心しながら、一撃で致命傷を与えないと殺せないな、と冷静に分析する。    対する冒険者も、傷を再生させながら策を練る。  ポータルを踏ませるという狙いはバレたものの、狙えないわけではない。  この魔人の狙いはあくまで人命を奪うこと。  であれば無理に倒そうとせず、自分が逃げるように立ち回れば誘導できるだろう。  幸いこちらにはなんだかんだ役に立ってくれる主人《フェステ》もいる。  言葉を交わさずともフェステなら自分の行動を理解してくれるとしんじ、冒険者は動き出した。  目がある程度見えるようになった瞬間、踵を返しメルトから逃げるように走り出したのだ。   「なるほどの、了解じゃ下ぼ——」 「——何が了解だ、逃がすわけないでしょ」    だが、その企みは阻止された。  走り出した冒険者に一瞬でメルトは追いつき、その足を踏みつける。  強制的に足を止められた冒険者は苦虫を噛み潰したような表情でメルトを睨みながらこの状況から脱する方法を思考する。  が、それはもう遅かった。  メルトは冒険者が思考を巡らせるより先に踏みつけている足でさらに大地を踏み鳴らす。  地面が大きく割れるほど強烈なその震脚と同時に、肘を前に突き出した——。   「——潰心槍《ついしんそう》」    頂肘《ちょうちゅう》という技がある。  今メルトがやったように、踏み込みと同時に肘を前に突き出す。  肘を利用した体当たりなどとも言われ、その肘には技の使用者の全体重、プラス踏み込みで発生させた反力の乗った非常に強力な技だ。  メルトはそこに発勁という力を相手の特定の場所だけに流す技術も加えた。  発勁を組み合わせたことで、本来胸骨を叩き折る技である頂肘は更なる進化を遂げた。  分厚い骨と筋肉という鎧を素通りした力は心臓で炸裂し、心臓だけを破裂させる。  それが潰心槍《ついしんそう》。  文字通り、心臓を潰す槍となったのだ。  血を吐き、冒険者は片膝をつく。   「下僕ーーッ!」    フェステの叫び声が静かな街に響き渡る。    だが、冒険者はまだ倒れない。  冒険者は血を吐いた。  血を吐くということはつまり、消化器官や呼吸器官に傷がついたということ。  つまり——   「——こいつ、自分から当たりに来てズラしやがった」    冒険者の心臓はまだ潰れていなかった。  咄嗟にメルトの潰心槍に自分から当たりに行くことでヒットのタイミング、そして発勁の炸裂位置をズラし、心臓を守ったのだ。  これによって心臓ではなく胸骨が折れ、折れた胸骨が肺に突き刺さったのだ。    だが、肺に骨が突き刺さったことにより冒険者は身動きを取ることができない。  その隙にメルトは追撃を仕掛ける。   「待てっ!」    そんなメルトの前に、フェステが割り入った。   「主人を置いて先に死ぬなど許さんからな……おい貴様!下僕を殺したくば先にワシを殺してみろ!」    フェステは両腕を広げ、小さい体で精一杯冒険者を守る。  最初に視線を向けられた時とは違い、明確な殺意を向けられるが、歯を食いしばりメルトに立ちはだかった。   「まぁ、元より全員殺すつもりだけどさ」    そう言いメルトはフェステに手を伸ばす。  先程のように目を潰されるかも、と思いぎゅっと目を瞑るフェステだが、その手はフェステの眼前で止まっていた。     血を吐きながらも、冒険者がメルトの腕を掴んでいたのだ。   「まだ、だ……!」    冒険者の胸元から光が漏れる。  イマジンシードが輝いているのだ。  その輝きは冒険者の右腕に収束し、一振りの剣となった。  フェステは冒険者の後ろに回り、背中をぐっと押す。   「ハァアアアアアァッ!」    渾身の力を絞り出し、冒険者は剣を振るった。   「残念、私《ここ》は気迫だけで超えられる壁じゃないよ」    そう、気迫だけでは超えられないのだ。  竜王を倒したものであろうと、イマジンシードの力があろうと、この絶対的な壁は超えられないのだ。  メルトの上段蹴りで冒険者は肩を打たれ、剣はメルトまで届くことなく弾かれる。  そして、蹴りのために高く上げられた足を振り下ろし、踏み込む。  踏み込みということはつまり。   「絶心砲《ぜっしんほう》」    今度は肘ではなく、拳で。  内部破壊ではなく直接破壊で。  メルトの拳が冒険者の胸を貫いた。  拳による風圧と、それによって飛び散った血が後ろにいたフェステにかかる。   「えっ……あ…………う、そ……じゃ、ろ……」 「嘘でも幻でもなく、現実だよ」 「そんな……いや、そんなはず……だって、ヴォルディゲンだって……」    現実を受け入れられないのか、フェステはぶつぶつと何かを呟きながら立ち尽くす。  メルトはそんなフェステをやはり気にも止めず、足を使って腕を冒険者だった死体から引き抜く。   「さて」    ビッ、と腕についた血を払う。   「これで邪魔者はいないし、そろそろ終わらせようか」    メルトはまだ無事な家屋の屋根に乗り、天高く飛び上がる。   「魔人装」    空中でそう唱えると、メルトの肉体に変化が起きていく。  頬から眉間にかけてビキビキと赤い紋様が走っていく。  額からは皮膚を突き破り、禍々しい角が生えてきた。  更に、手足には白いモヤがかかり、それが凝固し腕甲と脚甲となった。  アステルリーズ全体が視界に収まるほど高く飛んだところで拳を握り、構える。  そして自由落下と共にその拳を振り下ろした。   「神炉崩壊《メルトダウン》」    未だ放心状態のフェステだが、一瞬空が青白く光り、眩しさに思わず目を閉じた。  その瞬間、とてつもない衝撃に襲われ街全体が|木っ端微塵に割れた。  衝撃に直に襲われたフェステは、そのまま意識を手放してしまった。     「……はっ」    フェステが目を覚ますと、何か黒く重い者に覆い被さられていた。   「熱っ……なんじゃ、これ……」    小さな体でなんとかどかすと、どうやらそれは人のようだった。  先程まで街にいたのはフェステと冒険者だけ。  そして何より、胸と思しき場所に空いた穴は間違いなく先程メルトに空けられたものだ。   「……全く、言ったじゃろ、主人を先に置いて死ぬなど、許さんと……!」    メルトの最大奥義、神炉崩壊《メルトダウン》が直撃する寸前、冒険者は正真正銘最後の力でフェステに覆い被さり、フェステを守ったのだ。  そのことに気づいたフェステは涙を流しながらほぼ炭と化した冒険者の遺体を崩れないようそっと抱きしめ、涙を拭い立ち上がる。    フェステが周囲に目を向けると、そこは地獄だった。  遍く建造物は倒壊し、アステルリーズの象徴とも言える神殿は地盤から崩落し、その奥の闘技場も崩れ破片と思しきものが海に流れていた。  フェステは街門広場という開けた場所で、冒険者に庇われたおかげでなんとか助かったが、神殿の下の歌劇場に避難していた住民は誰も助かっていないだろう。  「これを全て、あの魔人一人が……」    瓦礫の山と化したアステルリーズで唯一生き残ったフェステは、せめて街の外に逃げようと足を前に出す。  が、当然のようにアステルリーズとアステリア平原を繋ぐ橋も先程の一撃で破壊されていた。  孤立無援。  脱出は不可能、救助も望めない。  というかそもそも、あの魔人相手に勝てるものなどいないだろう。  たった一撃で街一つを破壊し尽くせるあの魔人に、敵うものなどいないだろう。  フェステはただ一人、孤独と無力さに打ちひしがれていた。    そしてこの惨劇を引き起こした張本人であるメルトは崩落してもなお一番高い場所である神殿の頂上に立っていた。  奇しくも先程まで禍言が立っていた場所に。   「なんか、あっけなかったな。こんなもんか」 「いや、これからだ」    一人呟いたメルトに何者かが声をかける。  無論フェステではない。  そして物理的に声をかけたのでもない。  メルトの内側からの声だ。  つまり——   「なに『魔法使い』、なんか用?」    メルトの肉体に同居する悪魔、『魔法使い』の声だ。   「この街の住民……およそ三万人といったところか。その人間共の魂を吸収できたことで一つ、ある魔法の発動が可能になった」 「もったいぶるなよ、何の魔法?」 「世界を終わらせる魔法だ」    世界を終わらせる魔法。  人類の滅亡、世界の終焉を望むメルトにとって、これ以上ない魔法だ。   「こんな調子でちまちまと殺して回ったところで、一生かけても人類の滅亡など叶わないぞ」 「そりゃ……いや、まぁそうかもね」 「だがこの魔法があれば一時間とかからず全人類殺し切れる。どうだ?現実的な線としてもアリだろう」 「また何か裏がありそうだけど……まぁいいや、手っ取り早く終わるんなら、それで」 「契約成立だな」    では早速始めよう、と『魔法使い』はメルトにけしかける。   「魂だけの俺じゃこの世界には干渉できないし、魔法陣を書くほどの時間の余裕もないだろう」 「海を渡って他のヤツらが来ても面倒だしね」 「だから貴様の体を発生源とさせてもらう。俺は貴様の体に陣を刻む。その間、貴様は詠唱をしろ」 「詠唱なんて何言えばいいのか、全く知らないけど」 「何を言うかは重要ではない。その言葉を込められた意志だけが重要なんだ。貴様の人類滅亡を願う意思を、世界の終わりを望む怒りを、言語化するだけでいい」 「そういうことなら。じゃあ……」    目を瞑り、深く息を吸う。  そして思い出す。  過去の理不尽を。  虐げられ、恐れられ、命を狙われた出来事の数々を。  目を開き、腹の中に渦巻く怒りをゆっくりと言葉として紡ぎ始めた。   「見えざるものは確かに在った。  在らざるものは確かに見えた。  であればそれは、見ようとしなかったものであり、受け入れようとしなかったものだ。  人が私を拒絶するなら、私は人を滅ぼそう。  世界が私を拒絶するなら、私は世界を滅ぼそう。  願いも呪いも、万象一切灰燼に帰そう」    言葉を紡ぐほどに、メルトの全身に顔だけだった悪魔の紋様が広がっていく。  そして、紋様が広がると共にメルトの肉体は熱を帯びていき、白く輝いていく。  街門広場跡にいるフェステからもハッキリと見えるほど。   「いつかの未来で見た世界の終わり。あれとは似ても似つかぬが……そうか」    世界は今日終わるんじゃな。  フェステは諦めも、絶望すらももはや心中にはなく、ただ目の前の現実を理解させられてしまった。  ただ世界の終わる様を、網膜に焼き付けていた。   「過去も未来も、私が全て終わらせてやる——」 「さぁ叫べ、世界をおわらせるお前の魔法をッ!」    もう一度、深く息を吸い、叫んだ。   「——紫炎万浄《しえんばんじょう》ッ!!」    メルトの全身を輝かせていた熱を、手に集約させる。  そしてその熱を大地にブチまけた。    熱は紫の炎となり、瞬く間に世界中に広がる。  炎の勢いは衰えることを知らず、海すらも蒸発させながら燃え広がり、森も街も、全てを焼き尽くす。  魔法使いの言った通り、一時間後には燃焼するものがなくなり、即ち全て燃え尽きた。  全ての命が失われた。    ——たった二つを除いて。   「ようメルト、久しぶりだな」    時間にして約二十二時。  メルトの元に一人の男が現れた。  白い髪に、白いスーツ姿の男。   「……まぁやっぱ、お前は生きてるよな、禍言」  白い男、禍言は生きていることが当然かのようにくはは、と笑った。   「約束通り、オレとお前だけになったからよ、殺しに来たぜ」 「あぁ、したね、そんな約束。じゃあ」    構える二人。   「人類最後の殺し合いといこう」    惑星レグナス、最後の戦いが始まった。  音速を越えるメルトの拳を当然のように見切り、禍言はカウンターの一撃を着実に当てていく。  禍言の一撃はメルトより遥かに重く、速く、鋭い。  常人であれば一発食らえば死に至るようなその攻撃を、メルトは回避すら許されず食らう。  顔面の骨の砕ける音を聞きながら、それでも怯まずメルトは攻撃を繰り出し続ける。  誰もいなくなったレグナスで、言葉もなく、骨と肉の撃ち合う音だけが響いた。    数分後、白いスーツを返り血で真っ赤に染めた禍言と、息も絶え絶えなメルトが立っていた。  これは殺し合いなのだ、倒れるまでではない。どちらかが死ぬまで、続く。  しかし、それももう終わりだ。  手を動かすことすらままならなくなったメルトに、禍言は最後の一撃を見舞う。  だが踏み込んだ瞬間、禍言は足を滑らせた。  メルトの流した血が禍言の足を取ったのだ。  メルトはその一瞬を見逃さない。  動かせないはずの腕を、足を、執念だけで動かし、禍言の顔面を殴る。  禍言はそれを避けることなく、顔面で受けた。  そして、お返しと言わんばかりに、今度こそしっかりと踏み込み、そしてメルトを殴り沈めた。     「オレとここまで戦えたのは果街はてな……あー、人類最強の女なんだがよ、そいつ以来だぜ。だから誇れよ。お前は間違いなくこの世界で一番強かった。俺が保証してやる」 「勝、者に……慰められるなんて……屈、辱……だよ」 「くはは、そりゃそうか。……なぁメルト」    笑い、禍言はメルトに問いかける。   「楽しかったか?お前の人生」 「そうだな……最悪で、最、低で……でも、悪く、なかった……よ」 「くはははははっ!人類絶滅させといて『悪くなかった』たぁ全く、お前は—— ——人類最悪の我儘野郎だぜ」        かつて、奔放なる我儘と呼ばれた少女は、怒りの魔人となり、そして人類最悪の我儘に至った。  その人生は決して幸せなものではなかった。  幼少期は奴隷のように扱われ、暴力でしか自由を手にすることができず、それ故に恐れられ、命を狙われ、自由になることなど叶わなかった。  しかし、それでも次があるのなら、彼女はこう言うだろう。     「力を持たず、不自由であることに気付けないまま、無知なまま幸せに過ごすくらいなら、私はもう一度、力を手にして不幸になるよ」

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